Cinema Clip

ネタバレだらけの映画感想。和洋問わず古い作品が多め。

『人間蒸発』

人間蒸発 [DVD]


1967年
監督:今村昌平
出演:露口茂、早川佳江(一般人)

これはドキュメンタリーですがフィクションです。
これはドキュメンタリーですがフィクションです。

大事なことなので2回言ってみた。
当然台本は無し。盗撮盗聴なんでもありモザイク・音声処理もほぼ無しで今なら間違いなく人権侵害で訴えられます。
こんなのよく作ったと思う。


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さて、ついに60年代までさかのぼってまいりました。

この露口茂という役者さんは『太陽にほえろ』の山さんでおなじみ。私にとってもこのお方は完全に『山さん』なので、ここでもそう呼ばせていただきます。
そんな山さんが、まだ山さんになる前の作品。
ただのドキュメンタリーだと思って観るとド肝を抜かれる。


突然姿を消してしまった婚約者を探している早川佳江。ドキュメンタリーなので早川さんは早川さん本人として出演。婚約者も実際に姿を消してしまった人です。ちなみに早川さんは今村組から『ネズミ』というあだ名をつけられている。確かにねずみっぽい顔をしている。気の毒なあだ名だ。
山さんは何者かというと、ネズミの後見人であり簡単に言えばレポーター的存在である。ネズミと共にあちこちに潜入したり盗聴器を隠し持って撮影に挑んだりとかなり大変な役回り。

山さん、なんか小動物っぽい!もぐもぐしててかわゆい。

右にいるのがネズミです。負オーラ全開。


婚約者の実家まで行ったり職場を訪ねたりして聞き込みをするネズミと山さん。で、ベタですけどこの婚約者が実は金遣いが荒かったり大して仕事が出来なかったり、大酒飲みだったり女にだらしがなかったりという非常に残念な人物像が浮かび上がっていく。
ネズミは婚約者とはお見合いで知り合い、彼の素性をよく知らなかったのだ。

途中でキミちゃんという女性が出てくる。、彼女は婚約者が付き合っていた女性だが、二股かけられた挙句にふられている。ところがキミちゃん、彼の子を身篭っていたという噂があり、それまで大人しめだったネズミは容赦なしにガンガン問い詰める。キミちゃんは身篭り説を否定。
で、このシーンは盗撮である。キミちゃんには一応目の部分に処理かけられてるけど犯罪ですよねこれ。キミちゃんの彼氏も一応処理かけられてるけど会社名はバッチリ出てるし処理の意味がほとんどない。

更に浮かび上がったのはネズミの姉・サヨさん。ネズミとサヨは幼い頃から大変仲が悪かったらしいが、どうやらこのサヨが、ネズミの婚約者の「2号さん」ではないかという話が出てくるのだ。
山さんを間に挟み話し合う二人だがサヨはしらばっくれる。ネズミの姉に対する憎しみは深まるばかりでネズミ大号泣。『みんな不潔よ!山さんも不潔よ!』と言い出す始末。山さん何もしてないのに酷い言われ様。

ここまでが前半で、肝心の婚約者の行方は全く掴めない。監督は『これじゃ映画として面白くねえなあ』と言い出す。そんな事言ってもドキュメントなんだから仕方ないんだが。
ネズミと山さんはワイドショーに出演したりして、ついに公開捜査に踏み切る。
さあ、こっからがこの映画の本番で、フィクションの始まりである。

監督はある事に目をつけた。

監督『ネズミさー、もしかして山さんのこと好きなんじゃね?』


えっ?

山さん『僕もそんなような気はするっちゃするんですけどー・・・』


二人とも、ネズミの婚約者探しに対する情熱が段々薄れている事を感じていた。つまりその原因が、もしネズミの気持ちが山さんに傾いているせいという事になると・・・この映画の目的が完全に変わってしまうわけですよね。って事はこの映画ここで終わっちゃうんじゃないの?
と思いきや、それを面白がって『ここを掴まなきゃ!!』とノリノリの監督。
そんな監督の横で、まさかの展開に開いた口が塞がらない山さん。

『(マジかよ・・・・・)』


山さん自らご本人に確認したところ、案の定婚約者の事はどーでもよくなり山さんを好きになっていたネズミ。そんなネズミに『人って、自分を演出するような部分があると思うんだよね』と諭すように話す山さんだが、どうやらネズミは本気らしい。
というか、ネズミはワイドショー出演以降は特に、一般人ではなくほとんど女優のような言い方、振る舞いをしている。山さんとのデートシーンも見た感じはほとんど演技をしているようで、とても一般人の出ているドキュメンタリーには見えない。むしろ薄々わかっちゃいたけどほんとに告られちゃった山さんの方こそドキュメンタリー。平静を装っているように見えてかなり動揺している模様。そりゃそうだ。

さて、ここから映画の趣旨は大きく変わり、早川姉妹の確執に焦点が当てられる。
なかなか話の進まなかった前半に比べて後半はジェットコースター。ほんとに一般の人なの?と疑いたくなる証言者が現れたり、果ては得体の知れない霊媒師まで現れる。
そしてやはり、姉は婚約者と関係を持っていたのではないかという結論へ達する。

姉妹対決再び。またもや間に挟まれる山さん。
くたびれているのか?どこか遠くを見つめてます。

『(早く終わらないかな・・・・)』


実はこの映画、撮影に7ヶ月もかかっているのだ。
その上こんな姉妹に挟まれてたらそりゃくたびれるよ。

姉にガンガン攻め込むネズミに対し、全てを否定する姉。激しい罵り合いで埒があかない。途中から重要な証言をしたお魚屋さんと監督も参戦。お魚屋さんは、2年前に姉と婚約者が歩いているところを見た、とハッキリ姉の前で証言するが、姉は知らん知らんの一点張り。
これではいつまで経っても決着がつかない。

ネズミ『監督、真実って何でしょう・・・』
監督  『  わ  か  り  ま  せ  ん  !  』 ←



えーっ!!驚
ここまでやっといてわかりません、ってそんなアンタ・・・・!!

突然『セット外せ!』と怒鳴る監督。
ガタガタと外されていくセットの壁。普通の部屋と思われていたその場所は、なんと日活の撮影所のセットだったのだ。何だこれは。

表に出て、証言者たちと討論になるネズミたち。
野次馬がぞろぞろ集まり、全員一斉に喋りだしてもう誰が何言ってるんだかさっぱりわからないカオスな様子はかなり笑えた。



結局婚約者なんか見つからなかったし、姉と婚約者がどうゆう関係だったのかも明らかにはならず。証言者のお魚屋さんはブチ切れて帰っちゃうし完全にとっちらかりっぱなしな状態で映画は終わりを迎える。

何と言っていいやらわからんが、結局人の記憶なんてのは曖昧で、真実を突き止めるなんて事はできやしないのだと。ちょっとこじつけな感じがしますけど、でも実際にこのドキュメンタリーは、ドキュメンタリーとして崩壊している。
っていうかね、たぶん撮影の途中から収拾のつかない状況になってしまったんだと思うけど、でも監督の狙いは最初からネズミ自身の本性にあったんではないかと。で、更にしらばっくれな姉が出てきたもんだからそっちのが楽しくなったのかね。よくわからんが。でもそうゆう、女の中身晒すみたいなの好きだよね今村さん。

で、そもそも何で後見人として山さんを起用したの?って話なんだけど、ネズミを山さんに傾けさせるのが最初から狙いだったんじゃねーかとすら思う。だってそりゃ、何ヶ月も山さんみたいな人とずっと一緒に行動してたらさ、そりゃー間違いなく惚れるだろ。
しかし山さんもよくこんな危険な映画に出演したものだ。これだけ盗撮盗聴してたら途中で訴えられてもおかしくない。


ラストでも言ってるけど、映画はここで終わるが実生活は終わらない。山さんはここでお役御免になるが、ネズミの方は一般人なので、実生活の中で山さんを好きになった気持ちはこの後どうしたんだろうねえ。
自分も演じてる、という上での告白だったならすぐ忘れちゃうだろうけど。


最後に渋過ぎるワンシーンを貼っておく。←自己満足

昭和な黒縁眼鏡+スーツ+タバコ。


渋いわー。

山さん眼鏡なしだと小動物だけど眼鏡の時は超絶渋かった。

というか山さん、視力が悪いのかほとんど眼鏡かけてた。そうゆう意味ではおいしい映画だった。


人間蒸発 [DVD]

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